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僕が英語を話せるようになった理由(わけ)
1.出会い
「あったかいねぇ〜」
突然耳に飛び込んできた日本語に、僕は涙が出るほど嬉しくなった。
独り言のようであって、誰かに語りかけているような、小さな呟きだったけれど、それは、紛れも無く日本語だった。
その声の主は、僕が出口のない迷路のようなボタニック・ガーデンを、何時間も歩き続けた末に、偶然辿り着いた場所に居た。
茂みの中を抜ける三方からの小道が出合ったその場所には、ぽっかりと空いた空間があって、僕の何倍もそこで生き続けてきたことが一目で分かる、大きな樹があった。幹の外周を測ろうとすれば、大人が5人、いやそれ以上集まって、腕をいっぱいに広げて取り囲む必要があるほど、その樹はどっしりと構えていた。
僕の目の前に現れたその声の主は、ちょっと突飛な格好をしていた。その光景は、僕の目に確かに映ってはいるものの、それをどう理解したらいいのか分からなくて、視力と思考力の間を、伝達信号が右往左往しているような、不思議な感覚がした。
薄手の白っぽいセーターにジーンズ&スニーカーという、服装はごく普通のその女性(ひと)は、たった一人で、両腕を目一杯広げて、ちょうど僕に背を向けた状態で、その大きな樹に抱きつくように立っていた。
肩より少し長い真っ直ぐな髪の向こうにある顔は、背後にいる僕からは見えなかった。
ごく平凡な性格だと自分で思っている僕は、普段なら、こんな風変わりな人とは絶対に係わり合いになりたくないと思うところだけれど、背に腹は替えられない。
とにかく、せっかく日本語が通じる相手を見つけたんだから、なんとしてでも、この迷路のようなボタニック・ガーデンから抜け出す方法を教えてもらわなければ。
ここに辿り着くまでに、勇気を搾り出して、擦れ違った人たちに何度か英語で道を尋ねてはみた。でも、相手の言っていることが全く分からなくて、そのくせ「OK, OK」とか、「Thank you, thank you」とか笑顔で分かったような振りをして、ずっと迷い続けてきた情けない自分の姿を思い出しながら、僕は苦笑した。
日本語なら大丈夫さ。たとえ、相手が多少風変わりな人であっても、何とでもなる。
そう決心して、僕がその不可思議な女性に声を掛ける為に近づこうとしたちょうどその時、僕から見てちょうど右斜め前の小道から、初老の男性が現れた。
80歳代と思える姿からは、想像も出来ないほど、しっかりとした足取りだった。
その初老の男性は、樹に張り付いている彼女の姿を目にした途端、笑いながら早口で何かを言った。
すると、その不可思議な女性は樹に張り付いたままの状態で、
「I’m chatting with this tree. Would you like to join us?」
と、これまた笑いながら答えていた。
えっ、もしかして、この人日本人じゃないの?と僕は焦った。
彼女の英語も、僕が聞き取れないほど速かった。
呆然と立ちつくしている僕の前で、二人はしばらくの間、世間話のような会話を楽しそうに続けた後、別れ際の挨拶のような言葉を二言三言交わし、会話を終えた。
そして、散歩を続けることにしたらしい初老の男性は、ちょうど僕がいる方角に向かって歩いてきた。
「Do you chat with a tree? No way…」
と、その初老の男性は、僕に向かって話しかけているのか、独り言なのか分からないような口振りで、呆れたように微笑みながら大げさに頭を横に振りつつ、僕の横を通り過ぎて行った。
背後を振り返るようにしてその初老の男性を見送っていた彼女の視線が、僕の存在を見つけたことをきっかけに、僕は、彼女に質問していた。
「Are you Japanese?」
どうして“英語”で「日本人ですか?」って聞いたんだか、よく分からないけれど、とにかく、僕の口から出てきたのはこの言葉だった。
「Yes, I am〜♪」
ノリのいいリズムと共に、明るい声が返ってきた。
僕は、我に返って、
「あの〜、日本人の方ですか?」
と、日本語で聞き直した。
「ええ、そうですけど―― 生まれた国も、パスポートの国籍も日本だし。」
この返事を聞いた瞬間、日本語で会話が出来ることがはっきりして、僕は心底ほっとしていた。
この後、とんでもない展開になるなんて、この時の僕に予想出来たはずがない。まさか、この人から、僕が英語を学ぶことになるだなんて…。
つづく。。。
目次
1.出会い
2.迷子になった時の心得
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まだ間に合う 〜クリスマスの宿泊〜 (ホテル・旅館) クリスマスプラン2006
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